キセキ

標準

“2017年4月8日の話。

愛知県のクラス「宇童会」で太極拳と八卦掌を教える為に、朝から中央道を走っていると、ラジオから3.11の震災から6年の日にあわせた特別番組の再放送が流れてきた。

ちなみに、宇童会は今年5月、つまり来月行われる合宿をもって二番弟子のFさんに引き継ぐことになっている。7年以上にわたって通った愛知県も、今回を含めて残すところあと3回。そんな事情もあってか、ラジオを聞きながら6年前の東関東大震災の日の事をしみじみと思い出していた。

あの日は「宇童会」の前日にあたっており、地震が起こった時は代官山にある映像関係の職場で会議中であった。状況が状況だったので会社は17時前に解散となったが、電車の復旧もめどが立っていなかったので、すぐさま代官山から町田の家まで歩いて帰ることにした。家に到着したのは23時30分過ぎ。家の無事を確認すると、翌朝早くに通行止の東名高速を避け、この中央高速で愛知県へと向かったものだった。翌々日には東名高速で帰って来ることが出来たが、後にも先にもあんなにガラガラの東名高速は見たことがなかった。

そんな想いにふけっていると、ラジオからは津波で被害にあった岩手県大船渡市出身という女性歌手の歌が流れてきた。その澄んだ綺麗な歌声と、「キセキ」というまっすぐで素朴な曲調にフッと心惹かれて思わず聴き入ってしまう。余韻に浸りながら、ふと、我に返って目の前にあるインフォメーションを見ると何やらいつもなら見るはずのない地名が。「やってしまった!」
そう、歌や番組の内容に、聴き入っている間に、うっかり小牧インターで降り損なってしまったのだ。

仕方なく次の一宮で降りる事にしたが、一宮は以前、仕事で長期出張で来ていた西春の近くだった。その長期出張がきっかけで、この宇童会も生まれたのだ。インフォメーションには西春の文字も見えて懐かしさが込み上げてくることもあり「まあ、いいか」と気を取り直すのだが、ここでまさかの二度目のミス!なんとカーナビを見るタイミングが変なタイミングでズレてしまい、遠回りの道に入ってしまったのであ
る。

「なんてこった」と思いながら、カーナビを見直す。目的地は宿泊先の「すいとぴあ江南」であったが、通るルートを見てその時、ハッと気づいた。このルートは、亡くなった一番弟子の加藤ひとみさんと初めて出会った公園の近くを通るルートだ!

込み上げてくる想いを噛み締めながら道を走らせていくと、次には弟子が入院していた江南厚生病院の脇を通り過ぎる。その病室の窓からは宿泊先の「すいとぴあ江南」も見えた。すいとぴあ江南は宇童会の合宿も行なっている場所で、合宿に参加するのを楽しみにしていた弟子だったが、亡くなったのはちょうど合宿前日だった。その数日前には「すいとぴあ江南が朝日に光っています」とだけ書かれたメールが届いていた。それが弟子から届いた最期のメールだった。いったいどんな思いで病室からすいとぴあ江南を眺めていた事だろう。

ようやくすいとぴあ江南に到着した時には、車で所縁ある地を辿りながら、まるで弟子との出会いから宇童会の今までを振り返ってきた気分だった。

途中、このきっかけを作ってくれた歌が気になって調べてみたら、歌の内容からてっきり「奇跡」というタイトルだと思っていたのだが、実際には片仮名で「キセキ」だった。キセキは自分にとってはまさに「軌跡」だ。そう、今まで一番弟子の加藤ひとみさんと共に作り上げてきた宇童会を全て二番弟子のFさんに引き継ぐに当たって、こうした形で宇童会の「軌跡」を一緒に振り返りながら言葉にならない気持ちを伝えようとしてくれた、そんな風に思えてならなかった。

そして…

「キセキ」の歌を購入して改めてよく聴いてみれば、一番最初の出だしの歌詞は「ひとみが見えること」だった。一番弟子の名前「ひとみ」さんの名が、そこにあった。

you tube:濱守栄子「キセキ」 ”

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